jan 14 2022
資源管理
日本漁業復活への道
水産ジャーナリスト
片野歩さま
四方を海で囲まれる日本。中でも、漁業・水産業にとっては理想的な環境にあると言って差し支えないでしょう。EEZ(排他的経済水域)は世界で第6位と広く、しかも、三陸沖を含む北西太平洋海域は、世界三大漁場の一つに属しているだけでなく、FAO(国際連合食糧農業機関)からは、最も生産性が高い海と評価されています。
にもかかわらず、「魚を獲り過ぎてしまったために、全国で漁業と水産業の衰退が止まらない」と話すのは、北欧を中心に水産物の買い付けに従事、欧州を主体とする世界の漁業事情に精通されている水産ジャーナリストとして活躍の片野歩さん。
「私たちは、スーパーで所狭しと魚が並んでいる日常に慣れているため、日本漁業が衰退しているということがどこか他人事のように感じてしまっているかもしれません。しかし、「日本漁業の衰退が、輸入水産物の増加につながり、結果、水産物価格は上昇し家計を直撃している」(片野さん)ことはあまり気づいていないかもしれません。
例えば、サンマ(秋刀魚)。全国さんま棒受網漁業協同組合は、2021年の全国のサンマ水揚げ量が前年比38%減の1万8291トンだったと発表しています。記録的な不漁が続き、3年連続で過去最低を更新。3年前の18年比では約8割減と大幅な落ち込みで、卸価格は高値で推移しています。21年の産地市場での卸売単価は全国平均で10キロ当たり6205円。不漁による供給量の減少で、20年から29%上昇し、19年との比較では約2倍です。
片野さんによれば、これは輸入価格ではメバチマグロとキロ当たり同じ値段。秋の味覚の代名詞の値段は、一般的な価格とはかけ離れたものとなってしまっているのです...
どうしたらいいのか。片野さんは「資源管理がキーワード」であると話します。世界でも講演をされる片野さん、日本の水産資源管理に海外から関心が集まっているのは「資源の減少が止まらない日本の資源管理とその運用方法が陥ってはならない悪いケースで、反面教師として学べるから」とのこと。
「日本の水産資源管理:漁業衰退の真因と復活への道を探る」(慶應義塾大学出版会)では、ノルウェーなど、漁業で成功している国々の資源管理法をファクトベースで紹介、日本の漁業における本質的な問題と、持続的な資源管理に向けて何が必要なのか、提言がなされています。
ノルウェーサーモンの養殖施設
成長が続く世界の漁業に、どうして日本は遅れをとってしまっているのか。その理由と現状、そして、儲かる成長産業である漁業の可能性について片野さんにインタビューしました。ぜひお聴きください。
【書籍紹介】
日本の水産資源管理:漁業衰退の真因と復活への道を探る
持続的な資源管理の実現に向けて
(発行:慶應義塾大学出版会)
かつて漁業大国といわれた日本は、いまやその漁獲量が60年前と同水準にまで後退した。一方、世界では漁業は儲かる成長産業として躍進が続く。本書は今日のわが国の水産業に必要なことは科学的根拠に基づく資源管理の推進と幅広い情報の開示だと考え、漁業法の70年ぶりの改正を契機に再び漁業が勢いを取り戻すための方策を提示する。
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【スペシャルゲストプロフィール】
片野歩(かたの・あゆむ)
1963年生まれ。早稲田大学商学部卒業、水産会社勤務。90年から北欧を中心とした水産物の買付業務に従事。95~2000年、ロンドンに駐在し、欧州を主体とする世界の漁業事情に精通。また、20年以上毎年ノルウェーをはじめとした北欧諸国に通い、検品・買付交渉を続けてきた。2015年、水産物の持続可能性を議論する国際会議「シーフードサミット」で日本人初の政策提言部門最優秀賞を受賞。著書に『日本の水産業は復活できる! 』(日本経済新聞出版社)、『魚はどこに消えた?』(ウエッジ)、『日本の漁業が崩壊する本当の理由』(ウエッジ)がある。